第1264回 みな漏れず往生すべし

 平成29年 4月20日~

動物園でのことです。
のそのそと歩き回っている熊を、三歳くらいの女の子が、
檻にしがみつくようにして熱心に見ていました。

しばらくして、熊が厩舎に入りかけたときでした。
女の子は、歳に似合わぬきつい口調でこう言ったのです。
「いけません! 足をふかないでお家に入っちや!」

周りの大人たちから温かい笑い声がこぼれたのは言うまでもありません。
そばにいた母親も照れ笑いをうかべています。

「○○してはいけません!」というお母さんの一喝が、小さい子どもに
とっては生活の重要な指針になっているに違いありません。
それで、思わず母親の口真似をしたのでしょう。

それは、悪いことをさせてはならない、する前に押し止めようとする
母心から出た言葉なのです。

阿弥陀さまの第18願には、あらゆる人びとを浄土に往生させようと
願われていますが、最後に「ただし、五逆の罪を犯したり、
正しい法を膀るものだけは除かれる」と述べられています。

「五逆」とは、両親を殺すとか仏さまを傷つける等の五つの
悪逆非道な行為をさします。
「正しい法を謗る」とは、仏さまの正しい法を否定し非難することで、
「謗法」と言います。

これらの行為をするものは仏さまの救いから「除かれる」とされて
いるのです。
ですから、「五逆」や「謗法」の罪を犯すものは、まったく救いが
断たれてしまうかのように思えます。

 ところが中国の善導大師は、これは、仏さまが「五逆」や「謗法」を
止めさせようとして示されたのだと言われます。
つまり、私たちがこんな罪を犯してしまうことを心配された仏さまが、
「決してしてはならないぞ」とおっしゃって、罪を造らせないように
されているのだと言われるのです。

母親が幼子に悪いことをさせない為に思わず口にするように
「○○してはならない!」と仏さまが私たらの造罪を押し止めようと
されているのです。

そして、母親が最後には子どもを許すように、仏さまは、もし罪を
造ってしまったものをも、結局はお救いになると言われるのです。

 これを受けられた親鸞聖人は、このような重い罪のものでも、
仏さまのはたらきを信じることによって、結局はみな漏れずに
救われていくことを私たちに知らせようとされたのが第十八願
なのであると言われます。

それで、「凡夫も聖者も、五逆のものも謗法のものも、みな
本願海に入れば… 等しく救われる」と述べられているのです。

         森田真円師 ひらがな正信偈 本願寺出版社より

          


           私も一言(伝言板)