第1189回 生命科学は万能か

 平成27年11月12日〜

 生命科学の進歩・発達には目を見張るものがあり、難病の治療に対
する期待が高まっています。

 反面、生命科学は、生命、すなわち、いのちという未知の領域を
扱う研究だけに、一抹の危惧を覚えます。
なぜなら、それを扱うのは、仏や神ではなく、煩悩に溢れた人問であるだけに、
研究者自身の意図とは違うところで、想像もしない弊害が生じないとも
かぎらないからです。


 たとえば、人問は自分の利害に立って考えるため、生命科学の技術
自分の利益にそうように使う危険性を常にはらんでいます。
その技術を利用して金儲けをしようとたくらむ研究者や企業が現れない、
とは言い切れないのです。

あるいは、クローン技術やゲノム編集技術などによって、人間のいのちが
人為的に違ったいのちにつくり変えられるおそれもあります。

 私は、それによっていのちの有限性を解決できるとは思えませんし、
また、解決すべきではないと思います。仮に人のクローンができたと
しても、そのいのちも一つのいのちであり、それ自身の有限性を担う

だけのことで、元のいのちが有限性を解決したことにはなりません。

もっと恐ろしいのは、ゲノム編集によって人間を都合よく改変し、
「道具」として利用しようとするものが出てくることです。

生命科学が、素晴らしい可能性を秘めていることは認めます。
その一方で、いろいろなリスクが潜んでいることにも、ぜひ考えを
めぐらせてほしいと思います。

 多くの人は科学の進歩を是とし、生命科学の発達にも賛辞を送るで

しょうが、生命科学といえども、決して万能ではなく、利用する人間が
煩悩まみれであるということを冷静に見極めるだけの知識と態度を

持ち合わせたうえで、生命科学と向き合う必要があるように思います。


株式会社PHP研究所発行 「人生は価値ある一瞬」より


         


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