第1166回 虹の足  〜他人には見えて 自分には見えぬ幸福〜

 
平成27年 6月4日〜

こんな詩に出会いました。吉野弘さんの詩です。

雨があがって 雲間から
乾麺みたいに真直な
陽差しがたくさん地上に刺さり  
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、
虹の足を。

眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて  
虹のアーチが軽やかに  
すっくと空に立ったのを!  
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が  
すっぽりと抱かれて
染められていたのだ。

それなのに  
家から飛び出して
虹の足にさわろうとする人影は見えない。

―――おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客たちは頬を火照らせ  
野面に立った虹の足に見とれた。

多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。


そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で  
格別驚きもせず  幸福に生きていることが―――。

                       詩集「北人會」より

         


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