医系技官を知っていますか

 医系技官とは、医療制度分野、公衆衛生分野などで活動する医師あるいは歯科医師の資格を有する国家公務員である。主として厚生労働省において働くが、他の省庁や国際機関、都道府県などに派遣されることもある。人事面で、「本省」の課長級までの昇進が入省時から約束されるなど、国家公務員T種(上級職、高等文官)試験で採用される、いわゆるキャリアと同じ待遇を受ける

 国家公務員試験は一次試験→一次合格→二次試験→最終合格→採用候補者名簿への記載の順で進んでいく。しかし間違ってはいけないことは、この過程を経たうえで、各官庁が行う採用面接を受けて内定をもらわないと公務員にはなれないのである。各官庁はそれぞれの部署や仕事内容に適合した有望な人材を最終合格者の中から選別すると言うわけである。人事院の実施する公務員試験の中の人物試験である面接とは異なる。

 医系技官の存在を知る人は少ないが、存在を知っていても彼らの採用プロセスを知っているものは少ない。最もよくある誤解が、医系技官は医師国家試験に合格し医師免許を取得した上に「国家T種」にも合格していると言うものである。この誤解のおかげで、彼らはずいぶんと利益を得ているようだが、
医系技官は、「国家T種」合格はおろか試験も受けてはいない。と、言うよりも医師国家試験に合格すれば「国家T種」は不要なのである。
 臨床医が厚遇されていた頃、つい20年ほど前までは、医系技官になることを条件とした厚生省の奨学金もあった。8000人医師になって、そのうち厚生省に入るものが二三名の時代が続いていた。しかし、最近では医師過剰と臨床医の待遇の悪化などによる応募者の増加から「筆記試験及び面接」を課すようになっている。また以前は、臨床経験者や、都道府県の保健所に勤めた経験者を採用していたが、最近では医学部卒業直後に採用するようになった。今後は、卒後臨床研修が義務化されるため、それを経たものと言うことになる。

 厚生労働省のホームページには、「21 世紀の厚生労働行政を担う医系技官には、豊かな人間性、自由な発想、健全な研究心、行動力をもった若い人材が求められています。そのような意欲ある方が集い、一緒に働く機会を得ることを期待しております。」と書いてあった。なんかスローガンばかりの気がする文章である。

 臨床医学は医療の現場においての実践を経て初めて身に付く性格を持っている。医師国家試験に合格しても所詮机上の学問で止まったままである。しかも、その試験が易しすぎる(?)。
 以前、医系技官は、厚生省をはじめとした事務官僚達と医師会との橋渡し役を務めていた。いわゆる官僚の発想と医師の発想の両方をそれなりに理解していたからである。しかし、最近では、臨床の現場を知らないものが、いきなり事務官主導の官僚組織に入るものだから、どうしても医療現場の諸問題がリアルに感じられないようである。ペーパー・ドライバーが運転についてまともには議論できないように、ペーパードクターでは医療の諸問題を真に理解することは難しい。要するに事務官と変わりがない。あるいはそれ以下かも知れない。なぜなら、キャリア事務官は難関試験を通過してきているから、お疑いの向きもあろうかとは思うが、インテリジェンスの高さはそれなりに保証されているからである。一方、医系技官はと言うと、もちろん優れた頭脳のものが多いとは思うが、必ずしも保証の限りではないようである。それが証拠には、もし頭脳で採用されるのであれば、東大医学部や京大医学部などの出身者でしめられてもいいはずであるが、実際には地方大学卒が多い(ただし慶応閥は存在するようである)。まさか、東大・京大の出身者はすべて行政に不向きである、等と言うことはないであろう。そのくせ、根拠不明のエリート意識だけは、キャリア事務官並みに持っていて、地方に出向した時などに、辺り構わず威張り散らす「バカ」も多いようだ。
 医療を十分に理解する技官が厚生労働省にいなくなれば、ますます医療の質が低下してしまうのではないかと憂えている筆者である。



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