PTSDについて

1.心的外傷後ストレス症候群(PTSD)とは何か
 PTSDは、PTSDと言う病名では、つい過去20年の間だけ体系的精神医学の一部であったにすぎない。しかしながら、PTSDの概念は様々な異なる名前の下に100年以上にわたってよく知られていた。確かに、フロイトは、個人の後の情緒的な発展に幼年期の心的外傷を起こすような出来事が影響すると考えた。しかしながら、実質的には、それは心的外傷ストレスについて最も鮮やかに雄弁に書いた彼の同時代の人であった
ピエール・ジャネットであった。実際、彼はほんとうに心的外傷後ストレス症候群の全ての症候群(症候のグループ)について記述した最初の人であった。

 第一次世界大戦中に、PTSDは
シェルショックと呼ばれた。また、第二次世界大戦中には、それは戦争神経症と呼ばれた。ベトナム戦争の後に、それはしばしば誤ってベトナム後症候群と呼ばれた。確かに、PTSDについての理解および有効な治療は、ベトナム戦争の前に精神医学の文献に実質的にはよく記述されていた。ハーバード大学医学部出身の精神病医でボストンのマサチューセッツ総合病院のEric Lindemann博士は、最初にPTSDの系統的な取り扱いについて報告した。彼は、1940年代のココナット・グローブの火事と悲劇の後にこの仕事を行った。

 心的外傷後ストレス症候群は、心的外傷自体および人の心的外傷に対する反応で定義される。
人が経験し、目撃し、あるいは実際に発生した恐ろしい出来事に直面したときに、心的外傷が生じる。あるいは、人は、恐らくは彼ら自身または他の者が(身体的あるいは心理的)傷または死に直面したかもしれないような恐ろしい出来事に脅迫される。そして、その人のその出来事に対する、あるいは脅威に対する反応は極度の恐れ、無力および/または恐怖を含んでいる。

 しかしながら、心的外傷に対して強い反応を有することは正常であることに注意することが重要である。さらに重要なことは、予期された反応の分布範囲(スペクトル)が、先行する人の心的外傷への曝露および、なおいっそう遺伝的な(遺伝子的な)要因に依存することである。
重要なことは、PTSDの効率的で有効な治療法があると理解すべきことである。

 9月11日および他の悲劇の波紋において、PTSDに関する主な質問は次のとおりである
正常な悲嘆と病的な(異常な)PTSDの気分の悪さの差は何か。(フロイトは悲嘆と憂鬱症において、これについて話した。)
誰でも経験すると予想される短期的な(一時的な)心的外傷後のストレス症候は何か。
症候の持続期間において、ある治療が意味をなす要点は何だろうか。
病的なPTSDの気分の悪さの進展を防ぐ方法があるか。
心的外傷後ストレス症候群の範囲は何か。

 悲しいことに、9月11日の悲劇は心的外傷後ストレス症候群用の原因となる(増悪させる)最近の出来事の一つにすぎない。私たちの社会のPTSD問題の範囲は実際かなりの量である。例えば、現行のPTSD診断は、ベトナム戦争帰還兵だった500,000人の15%で見つかった。同様に、
身体への攻撃の犠牲者だった1000万人の女性のほぼ18%は、PTSDを有している。実は、全人口の8〜10%は一生のうちのある時点においてPTSDに苦しむであろう。

 苦しめられた個人および社会の両方にとってPTSDの影響は重要である。例えば、諸研究は、PTSDの患者に自殺と入院が多くなることを示した。さらに、PTSD患者は、アルコール乱用および薬物依存問題を高頻度に来すのである。付言すれば、私たちは、一般に犯罪行為の犠牲者だった患者がそれ以降医療サービスの非常に高い利用を持っていることを知っている。
最も注目すべきは、PTSD患者の3分の1は心的外傷の10年後まで関連した症候を持つであろうことである。これらの人々の大多数は、さらに他の精神医学の問題、結婚の問題、職業、金融、健康問題に苦しむであろう。

 症候が生産される
第2の様式は執拗な回避による。その回避は、心的外傷に関連する考えあるいは感情および心的外傷の記憶を引き起こす活動、状況を回避する人の努力に及ぶ。その出来事に対するこのいわゆる心因性の(情緒的に引き起こされた)健忘(記憶の損失)は、様々な反応に結びつくことができる。例えば、患者は、かつては楽しみを与えた活動への減少した関心、他の人々からの分離、感情の制限された範囲、そして将来が短くなるだろうという見解に至る悲しみの情動を発展させるかもしれない。

 症候が生産される
第3の様式は、影響を受けた人の過覚醒状態による。衝撃を受けた時、これらの覚醒症候は睡眠障害、短気、怒りの爆発、集中困難、増加した警戒および大げさな驚き反応を含んでいる。

2.診断はどのようになされるか。また、PTSDへの初期のアプローチは何か。
 誰でも、深刻な心的外傷の後の最初の月に上述した症候の任意の組み合わせを通常持つことができる。しかしながら、これらの症候の持続が1か月以上であって重要な苦痛を引き起こすか、あるいは症候が、人の機能的能力を害する場合、PTSDの診断を行うことが出来る。さらに、症候の持続が3か月以上である場合、慢性(長い持続)PTSDの診断がなされる。ある場合には、妙な話ではあるが、症候の始まりがストレスの多い出来事の後6か月までない。この状況は遅発性PTSDと呼ばれる。多くの場合、遅発性PTSDの結果(予後)はより悪い。

 研究は、症候の即時の減少が長期的結果および持続的な心理的気分不快の観点からは有害になりうることを示した。言いかえれば、鬱および他のPTSDの諸問題などの症候が初期のピークに達することを許すことは適切で望ましいのである。したがって、精神病医が採用した治療の多くは、重大な出来事(心的外傷を起こすような出来事)の報告聴取(調査)ストレスと呼ばれるもののカテゴリーの下にある。すなわち、私たちは、心的外傷を起こすような出来事の後に犠牲者にできるだけ早く会う。会合の目的は、第1に大部分が含んでいたもの、および二番目にある距離で複雑な個人と心的外傷を起こすような出来事について詳細に議論する(報告を受ける)ことである。特定の目標は、心的外傷を遠方に押しやるのではなく、心的外傷のすべての面について人々に話させ、そして、それがどのようにかれらに影響しているかを知ることである。

 臨床医は、心的外傷および人のそれに対する反応のすべての面に関して非常に早期に質問する必要がある。この情報はより多くの迅速な特定の診断に結びつくであろう。私たちは、初期の管理(介入)技術で、次に十分に発達した急性の(早期の)心的外傷後ストレス症候群および慢性の(長い持続の)心的外傷後ストレス症候群の発現に取りかかった患者の数を縮小することができることを知った。そうであるなら、質問は、一旦PTSDが診断されたならば、それを治療する最も成功した様式は何であるか、ということになる。

3.PTSDを治療する手段は何か。
心的外傷後ストレス症候群の治療用の基礎的な手段は次のとおりである。
症候集団を目標物にする個別精神療法
特に慢性のPTSDのためには当事者集団支援
薬物治療

 様々な臨床医および診療所は、PTSDを治療する独自の方法を持っている。しかしながら、PTSD専門家に関する調査は、より軽症の急性(初期の)PTSDについては、ストレス報告および初期の個別の精神療法が特に重要であると結論を下すように見える。より多くの重症の急性PTSDについては、薬物治療、重大な出来事ストレス報告、およびグループおよび個別の精神療法が、一緒に始められるべきである。子供、青年および老人(高齢)の患者中の軽症の慢性PTSDについては、その治療は精神療法である。大人の中のより軽症の慢性PTSDについては、組み合わせ治療が、ストレス報告、薬物治療、およびグループおよび個別の精神療法と共に再び使用される。

4.PTSDのための精神療法にはどんな種類があるか。
 次の質問は、どんな種類の精神療法をPTSDに使用すべきであろうかということである。ある人々は、子供時代に、性的、肉体的虐待のような重症の心的外傷の既往を持つであろう。それらの人々が治療自体によって再度の心的外傷を受ける場合、これらの人々は特に敏感(傷つきやすい)かもしれない。すなわち心的外傷を起こすような出来事の概観および論考によれば、かれらは、より激しく、恐らく慢性(長い持続)であるPTSDの変異形を発現させるかもしれない。したがって、これらの患者のために、より長期的な精神力動的精神療法が通常必要とされる。精神力動的精神療法では、過去の心的外傷と心的外傷がどのように現在の経験によって再燃するかに焦点がある。しかしながら、PTSDに苦しむ、大部分の人のために、症候に注目する認識行動戦略(精神療法)の組み合わせが、通常推奨されるであろう。

 例えば、
侵害性の(好ましくない)思考、フラッシュバック、パニックおよび回避(情緒的苦痛を回避する活動)は、暴露療法、不安管理および認知療法によって最もよく治療される(以下を参照)。暴露療法は心的外傷への一般的な反応に関する教育、呼吸の再教育(呼吸を数えたり深呼吸したりするなど)、また段階的な量の過去の心的外傷への暴露を繰り返すことから成る。暴露療法の結果、心的外傷の問題あるいは出来事は生じている不安やパニックを伴わずに思い出すことができる。

 認知療法は、侵害性思考をそれらが生み出す関連不安から分離することを含んでいる。さらに、それは患者が心的外傷の刺激にさらされる場合に常に生じる、思考類型の順序を変更することを含んでいる。認知療法は、さらに回避を行っている患者を助ける。なぜなら、この治療でこれらの患者が心的外傷を思い出させるものかもしれない状況あるいは場所をもはや回避する必要がなくなるからである。お分かりであろうが、認知療法は重症の反応を引き起こすこれらの思い出させるものの力を著しく縮小する。その上に、患者は、録音テープおよび/またはビデオテープの使用および日記をつけることにより診療室の外部でもこれらの問題に取り組むことができる。

 さらに、ストレス接種トレーニング(暴露療法の変形)が不安の管理のために使用することができる。この治療は弛緩を含んでいる。さらに、それは心的外傷を起こすような出来事に関して考えることに引き続く患者の思考を注意深く継続監視することを含んでいる。その後、心的外傷の思考が生じる場合、患者は、心的外傷に関する思考に続くそれらの考えを変更することを試みるために治療の中で作成された台本を使用する。初めは、かれらの思考類型のこの変化をもたらすために、患者は誰か他の人(役割演技)としてかれら自身をさらに想像する必要があるかもしれない。しかし、その後、役割演技は徐々に現実的になる。

 不安に役立つ他の型の治療は、視覚化技術および肯定的な自己話および社会能力訓練のような確信を築くものである。視覚化技術では、患者は心的外傷の考えが生じる場合にはいつも、特に平和か楽しい場所あるいは状況を想起し視覚化するようにかれら自身を訓練する。失感覚と言われる他の回避症候は情緒的な無反応、他者からの分離、および人生の楽しみの喪失を含んでいる。失感覚の治療については、ほとんどの専門家が認知療法、精神力動的精神療法および当事者集団支援を推奨する。実際、失感覚症候は、治療するべき最も困難な症候の一つである。これらの症候については、当事者集団支援が非常に重要である。

5.PTSDのための薬物治療は何か。
 
薬物治療では、すべてのタイプのPTSD症候が睡眠妨害以外は、選択的なセロトニン再摂取抑制剤(SSRI)および他の関連する薬剤に応答するであろう。心的外傷後ストレス症候群のための(食品医薬品局、FDAによって)良いとされた表示を備えた現時点でただ一つの薬はSSRI、sertraline(Zoloft)である。患者がさらに双極性障害(躁病、鬱)に苦しめば、リチウムかdivalproexナトリウム(Depakote)のような気分安定剤が加えられるべきである。睡眠障害については、trazodone(Desyrel)、zolpidem(Ambien)あるいはnefazodone(Serzone)がしばしば推奨される。

6.PTSDの治療結果およびフォローアップは何か。
 かれらが別の重症の精神医学的な病気、物質乱用、鬱的な病気、双極性疾患(躁病、鬱的)あるいは反社会的人格障害のような他の適精神医学的に不適応な人格障害を持たない限り、心的外傷後の症候群に苦しむほとんどの人々は3か月以内の治療に対するよい反応を期待するべきである。

 治療の初期の3か月後に、急性PTSDは2〜4週ごとにグループか個別の精神療法支援者会で治療することができる。慢性のPTSD患者は、支援者会で少なくとも6か月の間規則的に見られるべきである。しかしながら、一握りのPTSD患者、特に別の関連する精神医学的障害を持つ者は、より長い期間の全く症候的なままである。急性PTSDについては、漸減を考慮する前に薬物治療の継続期間は6〜12か月である。反応性のよい慢性のPTSDについては、私たちは1〜2年で薬物治療の漸減を考慮することができる。しかしながら、残余の症候を備えた慢性のPTSD患者は、少なくとも2年間治療を継続する必要がある。

7.PTSDの将来は?
 PTSDに関して非常に魅惑的なことは、それが、生物学的・精神的・社会的モデルとして私たちが数年かけて知ることになった、診断と治療モデル(理論的枠組み)と酷似していることである。このモデルは、Cedars-Sinai医療センターのフランツ・アレグサンダーによって最初に開発され、次に、ロチェスター大学のジョージ・エンゲル(この人は用語を造った)およびジョン・ロマーノによってさらに詳しく述べられた。

 このモデルでは、明瞭な外部原因あるいは外部の増悪させる出来事があるが、それはこのモデルの社会的部分である。この出来事は私たちの対処プロセス(機序)を圧倒する、それはこのモデルの精神的部分である。対処機序は、このモデルの生物学的部分である、中枢神経系(脳)、特に自律神経系およびHPA(視床下部・下垂体・副腎)軸によってもたらされ(仲介され)ます。(自律神経系は、内分泌腺によるホルモンの生産および放出のような身体の無意識の機能を制御する。HPA軸は脳の視床下部および脳下垂体および副腎に属す。)実は、私たちは、これらのシステムがすべてPTSDの中で相互に作用することを知っている。更に、健康および病気の(病的)思考、記憶、感情および振る舞いを規制する脳の異なる部分間の複雑な相互作用がある。

 PET、SPECT、および脳を走査するファンクショナールMRI(MRIを用いて、生体機能を計測する方法のこと。脳神経系への応用としては、ある脳活動と因果関係のある局所脳血流分布の変化を反映する空間情報を持った信号強度の変化を検出する事により、脳神経系の活動を間接的に計測し、脳賦活地図 を得る脳活動の間接検出法)の強力な技術によって、私たちは、脳の異なるエリアがどのように互いに影響を及ぼすかを知っている。さらに、科学者は、様々な治療がどのようにこれらの関係をよりよい方向に変更することができるか理解し始めている。さらに、私たちは、PTSDにおいて脳に作用を及ぼす薬剤(精神薬理学)についてもっと知ることになるであろう。例えば、走査技術を用いて、様々な薬物の濃度を脳の異なる領域で決定することができる。

 将来のPTSDの精神療法に関して、9月11日の大惨事は、PTSDを持った多くの人々を生み出した。肯定的な側面における結果として、しかしながら、研究者は、PTSDに関するより多くより高い質のデータを得ることができるであろう。例えば、この情報を使用して、研究者は、PTSDのための私たちの現下の予防と治療の戦略がどのように働いているかを決定することができるだろう。そして、ともに働く科学者および臨床医は、PTSDのすべての被害者のための改善された結果を達成することを望む。

☆心的外傷後ストレス症候群を一瞥する☆

非常に圧倒的で本質的に怖がらせる、子供あるいは大人としての私たちの身にふりかかる出来事がある、それらは過渡的(一時的)な、そしてある場合には、ストレスに対する私たちの身体的そして心理的な反応の永久の変化を引き起こす。有り難いことに、私たちのうちのほとんどは比較的心的外傷的でない幼年期を持っており、大人として多くの心的外傷を受けない。しかしながら、重要な心的外傷を起こすような出来事がある場合、誰でも一時的に圧倒され少なくとも心的外傷後ストレス症候群の症状のうちのいくつかを発症することが予期可能である。

しかしながら、他のものは、生物学的に(生得的にあるいは遺伝学的に)脆弱かもしれないか、あるいはより多くの心的外傷の歴史があるか、あるいは、より直接かつ/または深く心的外傷によって影響されている。まだ、これらの人々は、有効に管理され治療することができる心的外傷後ストレス症候群の一過性の(一時的な)症候を通常持つであろう。実際、多くの症例において、PTSDは治癒されることができる。治療は初期の管理(介入)、惨事ストレス(災害時に救助等に携わる者が、悲惨あるいは危機的な状況に直面し、その後強いストレス反応を起こすことを言う。)の支持的な報告聴取、グループと当事者の調和した関係、目標とされた精神療法(ほとんどの患者に対する、暴露療法、不安縮小および認知療法)および薬物治療、特にsertralineなどのSSRIによる薬物療法を含んでいる。

しかしながら、別に、より慢性の(長い持続)PTSDを発現するほんの一握りの人々がいる。かれらのうちの一部は、さらにPTSDの臨床像を複雑にし、かれらの全快をさらに困難だがやり甲斐のあるものにする、他の関連する精神医学的障害を発現するかもしれない。最後に、それは治療の様々な様式が高度に有効であり、心的外傷後ストレスの困難な諸問題の扱いに熟達した熟練した臨床医がいることを知っていることは多少の慰めになる。しかし、もちろん、私たちは、9月11日の心的外傷の悲劇の繰り返しを経験しないことを望んでいる。



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